【全力少年】スパイクを買った日の話
あの日僕はお母さんの温もりに触れたんだ
ただその代償はあまりに多き過ぎたんだ
今日は少しだけその時の話をしよう
199X年 夏。
僕は小学3年生だったんだ
当時野球少年だった僕はある日お父さんと一つの約束をしたんだ。
「今度の算数のテストで100点を取ったら新しいスパイクを買ってやる!」
僕の当時履いていたスパイクはボロボロだったんだ。
だからお父さんに新しいスパイクを買ってもらえる話を聞いたとき嬉しくて堪らなかったんだ。
僕「本当に買ってくれるの!?」
父「ああ。男と男の約束だ」
僕「やった!でもお父さん一つだけお願いしていい?」
父「なんだ?」
僕「80点以上にしてくれない?」
父「・・・。」
僕「いや、もちろんやるからには100点目指すよ!?一生懸命勉強だってする!でも100点取らなきゃいけないプレッシャーの中勉強するよりは80点でもいいって気持ちで勉強するほうが気持ちも楽だし良い結果出る気がするんだ!」
父「なるほどな。確かに肩に力入れて勉強しても良い結果出るとも限らないし・・・まあお前がそう思うならそうしろ。ただ一生懸命勉強はすんだぞ!?」
僕「うん!わかった!ありがとう、お父さん!」
一雄が「交渉術」を習得した瞬間だった。
~数日後~
お約束どおり80点ジャストの答案用紙を持った僕はお父さんに報告したんだ。
その時お父さんは何か言いたそうな顔をしたが間髪いれず僕が
「男と男の約束だよね?」
と言うと黙って財布からお金を出した。そして一言、
「好きなの買って来い(泣)」
この時僕は将来詐欺師になろうと決めたんだ。
~翌日~
お母さんと一緒に近所のスポーツ用品店に行く
前々から欲しかった赤のラインが二本入った超カッコイイスパイクをゲットしたんだ
家に帰りすぐに箱から取り出し履いてみる
僕に履かれるために作られたんじゃなかろうか?と錯覚を起こすほどピッタリとした履き心地だったんだ
そして猛烈なまでの「走りてぇ!!」欲求!!
急いで家を飛び出し近所の公園へ行ったんだ
自転車で公園に向かう途中何度も何度もスパイクを見たんだ
スパイクは輝いていたんだ。まるで僕の心を写し出すかのように・・・
公園に着くと僕は無我夢中で走り回ったんだ
例え息が切れようが転びそうになろうがとにかく無我夢中で走り回ったんだ
いつまでも走ってられる・・・
僕は嬉しかったんだ
僕は幸せだったんだ
そしてウンコを踏んだんだ
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
ウンコを踏んだんだ
その瞬間脳天から垂直に稲妻が落ちた気がしたんだ
そしてしばらくすると雨の代わりに涙が降ったんだ
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
大声をあげて泣きじゃくる僕。
しかし泣きながらも一生懸命木の枝的な棒でウンコを取る僕。
そんな僕のそばにおじいちゃんが立っていたんだ
その横には犬もいたんだ
涙で顔がグチャグチャな僕におじいちゃんはこう言ったんだ
「がはははは!僕ごめんな~!そのウンチ、この犬がしちゃったんだ。全く悪い犬だよ、こいつは!がはははは!お家に帰ってちゃんと洗ってもらいなね、がはははは!」
僕は立ち上がった。
そしてウンコを踏んだ左足でそのおじいちゃんを蹴った。蹴って蹴って蹴りまくった
「痛!なにするんだ!」
「犬のせいにするなよ!」
「おい、やめなさい!」
「お前がスコップで拾えばいいじゃないか!」
「もうよせったら!」
「許さない!」
「わ、わかったからもうやめなさい」
「せっかくお父さんに買ってもらったのに!!!!」
そう言って次の蹴りをいれようとした瞬間軸の右足首が曲がる
「痛ーーー!!」
激痛。思わずしゃがみこむ僕。
みるみるうちに腫れていく右足。
捻挫。顔が歪む。涙。悔しい。
またしても大声で泣きじゃくる僕に散歩中のおばさんが近付いてくる。
「どうしたの~?大丈夫かい?・・・うっ!」
そう言って見た少年は右足を腫らし左足ではウンコを踏んでいる
これを見た瞬間おばさんは一瞬言葉をなくしていたように見えたんだ
だがこのおばさんのお陰で病院まで行くことが出来たし家にも連絡してくれた
病院で治療を済ませお母さんを待っている僕は少しの間スパイクを眺めていたんだ
「新品なのにだいぶ汚れてしまった」
「せっかくお父さんが買ってくれたのに・・・」
色々と考えているとまた涙が溢れそうになる
だけど泣くよりも先に疲れがドッと押し寄せてきて僕はそのまま眠ってしまったんだ
ふと気が付き目覚めると僕はお母さんの背中にいたんだ
どれだけ眠っていたかは記憶にないがお母さんは静かに僕をおんぶして歩いていた
背中から伝わるお母さんの温かさがやけに心に染みたんだ・・・
「お母さん・・・」
「なぁに?」
「ごめんなさい・・・」
「・・・うん」
「お母さん・・・」
「なぁに?」
「僕のスパイクは~?」
「捨てたわよ、汚らしい!!」
あの日僕はお母さんの温もりに触れたんだ
と、同時に
冷酷さにも触れたんだ